春休み

毎年3月下旬のこの時期は、娘と2人だけで実家へ帰省し、地元の友達家族と遊び、父母と花見をし、墓参りが恒例。


ある日、母が病院へかかっている間、病院近くの公園で父と娘と私の3人で時間を潰していた。
いい天気だったので、公園には他にも小学校高学年ぐらいの少年達(10人位)がサッカーをして遊んでいた。父と娘はブランコに乗ったり、他の遊具で遊んだり、飽きたら雑草を摘んだり石を拾ったり、私は日陰で友達に借りた漫画を読んでいた。

気付くと、父と娘は石ではなく、ジュースの空き瓶の破片などのゴミ拾いをし始めており、ちょうどサッカーボールが父と娘の所に転がって、それを拾いに来たひとりの少年に、「いつも自分達が遊んでいる公園なんだろ。ゴミくらい拾わんか」と話しかけていた。
父は初対面とか相手の年齢関係なく、ごくあたりまえのように説教(本人は『説教』とは思っていない)をする人なので、ちょっとした世間話のつもりでそういう会話を普通に切り出す。たまたまその場に私達家族がいる時なんかは、ぴーんと張りつめた空気が漂うこと、昔から日常茶飯事だった。
その時も久々に「来たな」と思って様子を窺っていると、父に話しかけられた少年はボールを抱えて、父の顔をじっと見て話を聞いていた。他の少年たちも「?」という顔をして、少し離れた場所から様子を窺っている。
父ひとり「お前たちの父さん母さんが、汗水流して働いて収めた税金で、公共の施設や公園なんかは整備されてることぐらい、もうわかる年齢だろうが。この公園にゴミが落ちていることぐらい、遊んでたら気付くだろう。そろそろ社会の役に立つことを自分からするように意識しろ」と言いながら、割れた空き瓶の破片を拾っていた。いつもは騒がしい娘も黙々と拾っている。
私は、その少年が適当に返事をしながら「変なジジイに説教された」とか思いながら、その場を立ち去るんだろうな・・・と思って静観していると、なんと少年は何も言わず父と一緒にゴミを拾い始めたのだ。しばらくして、他の少年達も訳も聞かず、それに倣ってゴミ拾いを始めた。
私はもう、いてもたってもいられず、「ありがとね〜付き合ってもらっちゃって。近所に住んでるの?」とおばちゃん丸出しで声をかけたら、この春に小学校を卒業したばかりだという。12歳。こんなに素直だったっけ。この少年達がたまたま良い子なだけだろうか。

父はそれ以上特に少年達には話しかけず、目立ったゴミを拾い終わると「ご苦労さん」と言っただけで、少年達も返事をする程度で、その場はあっさりと終わった。
帰りの車の中で「今時の子は携帯いじったり家でゲームばっかしてるかと思った〜」「12歳って見知らぬ大人に対してあんな素直だったっけ?」と父に向って言っても、父は特に嬉しそうでも何でもなく至って普通(私の問いかけには無視)、娘は「みんなでゴミを拾うと、早くキレイになるね」と満足気な様子。

思春期の頃は、何かとすぐクレームをつけ喧嘩に持ち込む、一般市民でありながらヤクザな態度の父に嫌悪感しかなかったけど、初老になり孫娘を連れても尚、ああいうことを普通にあたりまえだと思ってやっているなんて、離れて暮らすと余計に情がわく様であれだけど、なんだか面白い出来事でした。